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デパート入店の精肉店の固定残業代を無効とし残業代を支払わせた判決
- 担当弁護士
- 渡辺 輝人
Aさんは、デパートに入店する精肉会社の店舗に採用され、食肉加工の業務に従事してきました。応募時の募集広告には「月給25万円」と記載されていましたが、当初の3ヶ月は試用期間で月給22万円とされました。
試用期間の終わりの方で、本店から社長が来店際の作業中の立ち話で正式に採用され、その際に何の説明もなく「月給25万円-残業含む。」と記載された労働契約書に署名を求められ、その場で署名し(業務中だったので押印はできず)、社長が本店に持ち帰りました。
それ以降、給与は25万円の固定給で、どんなに残業をしても別途残業代が支払われることはありませんでした。給与明細書には「基本給18万8000円」「残業手当6万2000円」と記載されていました。残業時間は夏の閑散期を除き毎月50時間を超える状況で繁忙期には月あたり65~75時間程度の法定時間外の労働時間がありました。
募集時には賃金総額を示し、入社後に曖昧な契約書にサインさせ、給与明細書で初めてそれらしい記載をする典型的な固定残業代の事例でしたが、Aさんの依頼を受けて会社に未払残業代の請求、訴訟提起したところ、会社は予想通り「残業手当」が50時間分の残業代だと主張してきました。
しかし、裁判所は「残業手当」を残業代の既払い分と認めず、算定基礎賃金に算入した上で、会社に一から未払残業代と遅延利息約150万円の支払いを命じる判決を出しました(京都地判平成28年9月30日)。判決文はその理由として、労働契約締結時までに固定残業代の金額と対応する残業時間が明確に判別されるべきことを述べ、また、会社が「50時間分の残業代と説明した」とする点は超過分の清算が全くないことを根拠に信用性を否定しました。さらに高等裁判所でもその判断が維持されました(大阪高判平成29年3月3日)。判決は確定し、付加金を含め、約200万円が支払われました。「労働契約締結時」とは、労基法15条との関係で、内定時のことを指すのが一般的な理解であるため、今後の理論の展開も期待されます。
本件は、典型的な「求人詐欺」の固定残業代を無効とした事案であり、給与明細書に「残業手当」と書いてあっても残業代ではないとした点でも、最高裁判所がタクシードライバーの残業代の支払いのあり方について判決(最判平成29年2月28日 国際自動車事件)を出した直後の高裁判決という点でも、意義のあるものです。大阪高判平成29年3月3日、京都地判平成28年9月30日の判決文は『労働法律旬報』1886号76頁以下に掲載され、『労働判例』1155号5頁以下にも掲載されました。