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不動産会社の営業社員は「個人事業主」ではありません~ある残業代請求事件~
- 担当弁護士
- 谷 文彰
Aさんは不動産会社に入社し、営業職として頑張っていました。けれど残業代がきちんと支払われていなかったことなどもあって退社し、その請求をすることにします。当初は別の弁護士に依頼されていましたが、残業代事件に詳しい弁護士をということで当事務所にご依頼いただき、労働審判を起こしました。
会社側の主張は、①午後5時以降については個人事業主としての契約をしているので、そもそも「労働者」としての労働にあたらず残業代は一切発生しない、②基本給には30時間分の残業代を含んでいるので、それを超える場合だけ残業代が発生する、というもの。
①については、確かにそのように読めないこともない契約書が取り交わされていました。どうやら不動産業界ではそのような契約パターンが慣行的にあるようですが、「労働者」にあたるか否かは指揮命令関係の有無などによって客観的に判断されます。Aさんの場合、午後5時の前か後かで仕事状況に何も違いがなく、同じように働いていましたので、午後5時以降も「労働者」であることは明らかでした。裁判所もそのように述べ、会社に対し、「残業代の支払いを免れようとする仕組みであって非常に悪質」「直ちに改めるよう勧告する」などと強い口調で迫りました。ここまで強く言うのは異例のことです。
②については、給与明細上は単に基本給の名目で支払われているだけで、基本給部分と残業代部分とが区別して支払われているという実態がなかったので、判例の要求する明確区分性の要件から、固定残業代の定めとしては無効であるというのが裁判所の見解でした。至極まっとうな判断だと思います。
こうして会社側の主張は否定され、裁判所の勧告に準じた額の残業代が支払われて本件は解決しました。受任から解決までは5カ月余りです。
不動産業界では「個人事業主」として契約させて残業代の支払いを免れようとする慣行がまだ残っているようです。そういた形態で働き、残業代が支払われていない方がおられましたら、どうぞ当事務所までご相談ください。